2005年07月31日

見ました天の川。

露天風呂の最後の浴槽の蓋を閉めるのは私の役目。
今日は自分も湯に入るか?
露天風呂に行く時「星が出てきたよ。」と妻が送り出してくれた。
「あ、ソッ」とつれない返事。脱衣室につくまで庭から見た星は「大した事ないヤッ」
脱衣室を一通り見回り、入り口のポーチライトを消し、浴槽のライトも消した。
一応脱衣室のライトだけつけ、浴槽につかる。
夜空を見上げました。浴槽から身を乗り出し、上を見上げました。
見えました。夏の大三角。確かにアルタイルの付近から下はところどころ曇っていたが、ほぼ、仰角20度までは、星が見えた。
北東の空から南に小さく一つ「あ、流れた」
浴槽から身を乗り出し、デネブを確実に確認。横向きになって、もう一度天頂付近を観測。見えました。出ました、白鳥付近の天の川
浴槽から出て、前に立ちました。大方は満天の星
「これを見たかった露天風呂。」

大学4回生の時、「お金が欲しいから、ボッカやらせてください」普通の学生の日給の3,4倍は稼げました。「学生なのに珍しいな」と当時でも不思議がられていました。
今日は鑓温泉に行ってくれ。重い荷物をしょい一歩一歩。
気楽な学生気分。
鑓温泉の支配人「お前、風呂に入ってけやッ」とぶっきらぼうに。
「いいのですか」
お言葉に甘え特別に湯に入った。
鑓温泉の露天風呂の浴槽から見る前の景色は、まさに歌舞伎にある「絶景かな、絶景かな」です。
「ここで星を眺めたら最高だろうな」
露天風呂の計画が持ち上がったとき、「浴槽の一部でいいからせり出し、湯に入って夜空を見上げた時、首をソックリ返し、頭上を見上げて星を見えるようにして下さい」が一つの要望。
いや、そのための、私は湯に入り星を見るために露天風呂を造って貰ったようなもの。
「その夢がかなった一瞬」
一応の始末を終え外に出た。もう天の川は見えなかった。
一瞬の天からのプレゼント。
万感の思いが込み上げてきた。

生まれた時から、私には父がいなかった。
父は「男の子なら勝功、女なら真砂子と名付けるよう」言い残し中国大陸に出征。そのまま帰ってこなかった。
他の7人の孫には父親がいる。私一人「母一人子一人」
祖父は出来の悪い孫の一人(私)の成長が一番心配だったのでしょうか?
祖父の存在は私には怖かった。
でも叱られた覚えはない。
不肖の孫を気にかけてくれたようなのでしょう。
どうにか一人前の就職をし、入社当初から最終電車の帰宅続き。
中古車を買い平のぺいぺいが車通い。
祖父の所有する古いアパートの前に、私専用の駐車スペース確保する地ならし。眼を細め、手伝ってくれた祖父。
勝手に大学の退学届けを友人に託し出し、山に入った。学園紛争の吹き荒れるその頃で、大学の研究室の中ではチョットした事件だったようだ。大学に事情を話し、必死に休学にとどめてくれた母。
休学中の身で小屋のバイトを人一倍こなしていた時、山の中腹まで、母は追ってきた。母は私を責めるどころか、むしろ優しかった。その優しさに気付かなかった、自身が怖ろしかった。
そんな祖父がいて、母がいて、戦地に眠った父がいて、私が露天風呂から念願の星を見ている。
そこには、幸せ者の、私がいる。
究極の贅沢。
風呂から上がると、もう天の川は見えなかった。
浴槽から見た、一瞬のタイミングでの天の川。

ペンションに入り、一番に仏壇の前に座り、線香を。
祖父、父、母に「幸せ者の私がいる」事への感謝を。
「有難うございます」と今後とも、三顧の礼